家庭で作る熟成肉FINAL その1

Q.家庭でドライエイジングビーフは作れるのか?
A.無理です。

-終了-

まって、お願いブラウザ閉じないで、でも家庭でドライエイジングビーフを作るのは不可能なんです本当です。
シリーズのその1で身も蓋もない結論を出した理由はこれから説明しますから許して

実は日本でも熟成肉の定義があった

家庭で作る熟成肉FINAL その0で「熟成肉は明確な定義がなかったため、マーケティングの餌食になった。」と述べましたが、実は2009年の時点で「日本ドライエイジングビーフ普及協会」Japan Dryaging Beef Promotionboard(略称:JDBP)(siteURL:http://dryaging.jp/)という協会が既にあったんですよ! こいつはたまげた、しかもその協会では日本における熟成肉の定義についても同サイト内で公表しています。
JDBP定めるところによるドライエイジングビーフとは(siteURL:http://dryaging.jp/db/index.html
以下引用

前提与件:
【1】チルド状態での肉の取扱いとする
*真空パック後でのドライエイジングへの取組みはこれを認めない
【2】品質の劣る肉での取扱いはしない
【3】管理台帳による管理の徹底
*個体番号、入庫・出庫、庫内管理記録、出店先など
 
基本要素:
【1】保管庫内の「温度」「湿度」「風」の3要素に「時間」のコントロールを置く
・「温度」帯/1℃前後
・「湿度」帯/70〜80%程度
・「風」/庫内の広さに、狙いとする庫内温度、湿度を睨みながら適合するファン(いわゆる扇風機など)による調整
【2】上記技術基本の中でも“Dry Aging”は“Wet Aging”とは異なり「風」の作用を大きなポイントとする。「風」の作用による乾燥熟成により肉の水分(自由水と結合水)の活性を促し「微生物」による酵素の働きを導くことを技術の核心とする
【3】こうした作用により、肉の柔軟化、旨味の濃さ、ジューシーさ、芳醇な香りが成果として認められるものとする
【4】上記基本の技術を以てその上での「安全」性の確保が充分に認められること
*定期外部検査の実施

ということらしいです。
まず前提与件を見てみましょう

【1】チルド状態での肉の取扱いとする
これは余裕でクリアできます

*真空パック後でのドライエイジングへの取組みはこれを認めない
はいはい、今時のお肉はみんな真空パックなんでこれも余裕でクリア…..ってあれ?
 
 
 
 
これを認めない
 
 
 
 
認めない
 
 
 
 
 
 
 
クリアできねーよ!!
 
おそらく肉屋になんのコネも無い一般人では絶対にこのハードルはクリアできません、下手すりゃ小さい肉の小売店に肉が届いた時点で真空パックですもん!近所にこだわりのある精肉店でもあれば別ですが、普通は無理です。
それ以降の品質や保管温度なんかはどうにかなるとしても、真空パックじゃない肉は無理、ということで家庭でドライエイジングビーフを作るのは無理です! ハイ終了!

そもそもなんで真空パックはダメなの?

僕もこれはなんでダメなのか最初は理解できず、色々調べました。
まずひとつの答えとして、代表がJDBPの役員を務めている「さの萬」というお肉屋さんの運営するサイト「DRYAGINGBEEF」の中の、ドライエイジングビーフの作り方(siteURL:https://dryaging-beef.jp/dab_method.html)にこう書かれていました。

現在、「熟成肉」として流通しているものは「ウェットエイジング+NYスタイル」が最も多くなっています。
特にUSビーフ、オージービーフといった真空パックで輸入される肉で「熟成肉」と名乗っている場合、ほとんどがこのタイプです。
 
しかし真空パックの肉は、ほぼ追熟はしません。その多くは船便だからです。
船内で真空パックのまま(ウェットエイジングの状態)で数週間が経つ間に、熟成が終わってしまいます。
それを日本へ到着後、パックから出して熟成庫に入れても変化は望めないどころか、腐敗に近いフレーバーが出てしまう危険性が高いのです。

この他にも真空パックによる圧力ストレスで酵素が抜けるみたいな話もありましたが、個人的にはそちらについては懐疑的で、もし外圧で活性酸素が発生してしまったのならトリミングすれば済むんじゃないかなーなんて思ったりもしてます(楽観)

チルドなのに船便?

船便って何ヶ月もかかるんでしょ? なのに冷凍じゃなくてチルドってどういうこと?と思うかもしれませんが、現代ではリーファーコンテナといって内部を一定温度に保つ設備をもつコンテナがありまして、チルド状態で何ヶ月も船便で輸送することが可能になっています。日本に流通しているアメリカン・ビーフはほとんどこれなんだそうです。
前述したサイトでは、そもそも肉は枝肉(骨がついたままの巨大な肉)であることが前提なので、前提与件に肉の大きさや重さについては言及していませんでしたが、熟成肉をするにはそのメカニズムの性質上ある程度の大きさが必要になり、それを一般人が入手するにはコストコやハナマサで真空パックされたアメリカン・ビーフを購入するのがおそらく唯一の方法だと思うんですが、これらはほとんどリーファーコンテナによるチルド輸送なので、JDBPの定義から外れることになります。
それでもコストコなら…コストコならやってくれる! と一縷の望みにかけてコストコホールセール札幌倉庫店に問い合わせてみたところ!
チャックアイロールなどはおおむね船による輸送を行っております。
店頭に届くまでの期間はおおよそ3週間~4週間になります。

との返事をMEAT担当A吉さんよりいただき撃沈しました。

ということで

ドライエイジングビーフを家庭で作るのは無理(に等しいくらいハードルが高い) という結論になりました。
短い間でしたがご拝読いただきありがとうございました。
 
 
 
 
 
 
 
 
じゃねぇよ! そもそも家庭でドライエイジングビーフを作るなんて一言もいってねーし!(あんまり見直して無いのでもしかしたら一言くらいは言ってるかもしれない)

そう、僕が作るのは熟成肉

真空パックの肉がドライエイジングビーフに向いていないのは理解しました。
が、それはあくまで精肉店さんが自信を持って売る場合の話! 僕はとりあえず家庭でお肉が熟成できるかをやってみたいんだ!! ということで次回は真空パックの肉なのには目をつぶり、それ以外で出来る限りドライエイジングビーフとなるような環境を家庭で作ろう! というところから写真なんかを交えてお話しようと思います。(というかここからが本題です。)
まて次回

家庭で作る熟成肉FINAL その0

で、結局家庭で熟成肉は作れるのか?

筆者はこのブログを作る前に同じような料理系ブログで「家庭で作るDAB(ドライエイジングビーフ)」という名前で家庭で熟成肉を作るためにいろいろと考察やら検証やらを行った記事を数回に渡って書いていたのですが、WordPressのデータベースを誤って削除してしまい、バックアップなんぞ取っていなかったため数ヶ月間のデータも記事と共にキレイさっぱり消えてしまったという過去を持っておりまして…
今回は少し環境が整ったというのもあり、その経験とその後の検証や経験を元に家庭で作る熟成肉最終盤として実際に家庭で熟成肉が作れるのか検証していく模様と、熟成肉にまつわる私見を数回に分けて記事にしたいと思います

熟成肉は文化になること無く、静かに去った

あれから数年、熟成肉は既に見る影もなくナタデココのように「そんなんあったねー」みたいなものになってしまいました…
外食業界も食肉業界もまったくしらないド素人の筆者が考えるに、熟成肉という言葉が消え去った原因は大きく分けて2つあります。

一、熟成肉はマーケティングの餌食になった

熟成肉という言葉が世の中に出始めたころは、まるで”安い赤身肉を柔らかくジューシーにする魔法”のようにもてはやされましたが、実際のところ熟成肉はフレッシュな肉よりも単価が高く、多くの場合味の差がはっきりわからないレベルのものばかりでした。
もちろん正しい(=フレッシュな肉と明らかに食味が変わっている)熟成肉は存在しましたし、熟成肉ブームが起こった原因はそういった正しい熟成肉が火付け役だったのは間違いありませんが、チェーン系飲食店がこぞって熟成肉のステーキなんかを提供しましたが、美味しかったって話は聞きません… 「正しい」という言葉を使いましたが、当時どの業界も団体も熟成肉の定義を出していなかったため、極端な話1日でも「熟成」と呼ばれる行為を施して入れば熟成肉を名乗っても問題無いわけで、話題に飢えていた広告屋にとって熟成肉というワードは商品に付加価値をつけるのには都合がよく、格好の材料だったのです。


つまり、熟成肉はマーケティングの餌食になったわけです。

二、情報がライフハック扱いだったのとドライエイジングという言葉の先入観

前項の冒頭でも書いたとおり、熟成肉は当初”安い赤身肉を美味しくする技術”のような形で広まりました。
僕は当時”ステーキには適さないホルスタインを熟成させ美味しくする”といった内容のTVドキュメンタリーかなんかを見ましたが、それ自体は本当の話です(実際に取り寄せて食べてみたことがありますが美味かったです)…が、日本人の美味しい牛肉のイメージは霜降り和牛であり、多くの人達はガチガチの赤身が霜降り肉のようになる得ワザ!みたいなイメージをしたんじゃないでしょうか? そして実際はそういうものではなかった…(このあたりはまた別の回に詳しく書きます)
また、ニュースサイトやyoutuber、ブロガーなどがこぞって自分で熟成肉を作るというテーマで肉を熟成させた旨の動画や記事を投稿しましたが、その多くは”ドライ”エイジングビーフという名前から牛肉を乾かすことが熟成であるかのような勘違いをしたものや、”熟成”という言葉に引っ張られて”ナンプラーや納豆などの発酵食品を塗ることで発酵を促す”といった”肉”の発酵と熟成を勘違いしたもので、衛生面も心配になるようなものでした。
当然効果も疑問なものなものが多く、仮に実際に試してもがっかりした人も多かったんじゃないでしょうか? 僕はこの手の情報ソースを自分で裏を取ること無く無責任な情報を拡散するクソどもが心底嫌いです。 つまり、熟成肉について真剣に検証した人はブームの勢いに比べて驚くほど少なかったからなんじゃないかと思います。

ロケット某ニュースがガーゼで適当に巻いた肉を数日宙にぶら下げた肉をウマイ!とか書いてた記事を見て黒魔術かよと思ったのは未だに覚えてます。

ロードマップ

今回の企画は、僕が経験から得た知識や、確度が高いと思われる他サイトの情報などを踏まえてまず肉の熟成とはなんぞや?という話と多くの人が勘違いしてるであろう部分を解説しつつ、それらを踏まえた上で自宅で熟成肉を作るとしたらどうする?という結論を出し、実際に自宅で熟成肉を作る経過を説明していくつもりです。

  1. 熟成肉の定義
  2. “家庭で作る”熟成肉の定義
  3. 肉の選定と環境を作る
  4. 経過観察(数回)
  5. 結果(実食)

何か問題が発生しない限り、上記の手順で長期に渡って不定期に進めて行きます。(合間に熟成という言葉の罠についてなど、ちょいちょい小話を交えていきたいと思います) 待て次回