御食事件

阿漕カツプロジェクト 初号

毎年初雪が振るたびにあわくってタイヤ交換をするものの、なんだかんだ実際に冬タイヤが必要になるのは一ヶ月後くらいだったりしますよね、今回の料理はそんな話題とは微塵も関係ない話です

 

みなさんは阿漕(あこぎ)田楽という料理をご存知でしょうか? 江戸時代に出版された「豆腐百珍」という豆腐料理の特集本に掲載されている料理で…

適当な大きさに切った豆腐をさっと焼き、うす醤油で煮つめてごま油で揚げたのち、味噌を付け田楽にしてすった柚子をつけていただく。

という、焼いて、煮て、揚げて、さらに味噌田楽にするという阿漕なまでに手間をかけた豆腐料理なんですが、僕こういうコッテコテに手間をかけた料理が大好きでして、ぜひとも現代の料理で同じように阿漕に手間をかけたものを作ってみたいと常日頃思っておりました。

そこで当ブログでもちょいちょい扱う「燻製」と「低温調理」にさらに一手間加えた料理を考えていたところ、四角い田楽のイメージと重ねて「分厚いトンカツ」を作ってみることにしました

今回は幾つか実験と検証を重ねた上で、初の試作品を作ったので記事にしたいと思います

阿漕カツ初号レシピ

まず選択したお肉はコストコの米豚ロース、脂身は1ミリ程度と非常に薄いものの肉質は柔らかく。何しろブロックで入手できるため試作用として選びました。

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こいつを贅沢に2.5センチにカット、キッチン用に100均のステンレス定規があると結構重宝します。(普通はしない)

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肉は冷蔵庫から出したばかりだと冷たいので、このままだと燻製をするのに不都合なためキッチンペーパーで表面の水分をとりつつ常温になるまで放置します。(ついでにコショーをまぶしておく)

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肉が常温に戻ったところで燻製するんですが、燻製をするとどうしても食材の表面が乾燥してしまい、カツの食感に影響を及ぼす可能性があるため、燻製工程はあくまで身に薫香を移すためと考えて、米油に浸したキッチンペーパーで肉を巻き、それを燻製することにしました。

ただ水に浸したペーパーじゃダメなのか?という話なんですが、実は燻製の煙は水と結びつくと酢酸を作ってしまい酸っぱくなってしまうのです。(※)
同様に肉が冷蔵庫で冷えたままだと、温かい煙が当たった時に温度差で肉の表面が必要以上に汗をかいてしまい、やはり酢酸を作ってしまいます。
そのため肉はあらかじめ常温にもどし、クセの無い米油を使うことで肉に余計な味をつけずに、油で肉の表面が乾くのを防ぐ方法をとりました。

※(水で煙が冷えて酢酸が結露するという説もあります)

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サクラのスモークウッドで40分ほど燻製、うまい具合に燻された米油が肉に薫香をつけてくれました。

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次に低温調理となるのですが、ここで身に完全に火が入ってしまうと揚げる工程で加熱しすぎてしまうので、低温調理工程はあくまで肉の柔らかさとジューシーさを引き出す目的で54℃3時間としました。
また、あえて今回は燻製工程で巻いたペーパーと油は外さずに使いました。

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袋のまま水にさらして粗熱をとります

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袋から出してペーパーを剥がすと表面は白くなってますが、中がピンクなのがなんとなくわかると思います(写真左下)

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パッター液と生パン粉、キャノーラ油で180℃で衣が色づく程度まで揚げて完成

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実食

肉はしっとりと柔らかく、2.5cmあっても難なく噛み切れて燻製の香りも気持ちいいです。
もともと脂身がほとんど無いためクドさもなくスルスルっと食べられました。
ただ衣は生パン粉を厚めにつけたにもかかわらず、肉の厚さに比べて衣が非常にたよりなく、また柔らかいだけで肉汁もそこまで豊富ではありませんでした。
肉料理としては特に悪くはないんですが、ロースカツを期待して食べるとちょっとがっかりします。

点数をつけるとしたら60点くらい? もうすこしガツンとしたインパクトを期待したのだが…

 

問題点と改善案

肉の選別

入手しやすさと加工のしやすさの点から選んだコストコの米豚ロースブロックですが、脂身があまりに薄く無茶苦茶分厚いハムカツ食ってるような気分になりました。
(言われて見れば筆者は普段このお肉でロースハムを自作しております。)
ベーコンや鴨ロースの燻製に代表されるように肉の脂と薫香の相性はかなりよいので、もうすこし脂身のある部分を使ったほうがいい結果を得られそうです。

スモークウッドの選別

こちらも非常にスタンダードなサクラをチョイスしましたが、香りが無難すぎてあまりパンチが効いてなかったので次回は香りにインパクトのあるリンゴや、ピートパウダーの添加も考えたいと思います

低温調理の温度と時間

レシピでも述べましたが、最終工程で揚げるという再加熱を行うため定温調理の工程で肉に完全に火が入ってしまうといけません
低温調理工程の主な役割はミオシンを分解して肉質を柔らかくすること(もう一つ重要な役割がありますがそれは後述)なので、ほぼ半生だけどミオシンが変性する(肉が柔らかくなる)51~54℃で1~3時間あたりが良いとおもいます。
ただし肩ロースのように肉にコラーゲンのスジが入る場合などで変わってくるので肉の選別に合わせていきたい
(低温調理の理屈に関しては低温調理器を自作する家庭で利用できるプロテアーゼ頂上決戦を参考にどうぞ)

揚げる温度と衣

通常の生パン粉では肉の柔らかさと厚みの食感に完全に負けてます…
今回の調理で確信しましたが、衣はもっと剣の立つ大粒の生パン粉か砂糖不使用のパンを細切りにしてまぶすなどの工夫が必要不可欠だと感じました。
(一応、パッター液を使わずに玉子>小麦粉>玉子>小麦粉とつけることで衣は厚くできますが、クリスピーな食感が増すわけではない)
なんならパンの衣にこだわらずカダイフとかクルトンあられ衣なんかを使ってザクザク感を演出するのもいいかもしれません、(肉のサイズ的に揚げ油を吸って重たくなりそうですが、そこはまた工夫ということで)それぞれの衣にあった揚げ温度で肉の最終加熱は十分に完了するので、揚げ工程は肉への影響はあまり考えずに、衣のボリュームを増やしクリスピーにする方に注力するのが良いと感じました。

燻製 > 低温調理 > 揚げ の順番の意味とメリット

「香りをつけてからさらに調理をしたら香りが薄まるんじゃないか?」「低温調理の後に揚げ、なぜ加熱を繰り返すのか?」とこんなことに疑問を感じてたらそもそも阿漕田楽に興味なんか持たないという話はおいといて、この順番にはしっかり意味があります。

まず、薫香は適切な方法で一度つけてしまえばそう簡単には消えません、それよりも燻製をすることで表面が乾くほうがカツを作るにあたってデメリットですので一番水分が多い段階で、且つ乾燥を防ぐ工夫を施して燻製します
次に低温調理、これは先程から身肉を柔らかくする効果を期待していると説明していますが、分厚いトンカツを作る上でもう一つ非常に重要な役割を果たしています。
それは「肉の温度を均一」にするということ、2.5センチともなると、揚げるだけで中心まで火を通すのは非常に困難なのですが、定温に調節されたお湯の中で行う低温調理は外側の温度と中心温度を同じにすることが比較的容易な調理方法であるため、ブ厚いお肉に均一に火を入れることができるのです。

(余談ですが、逆に中心に向かって徐々にグラデーションになった加熱状態を「温度勾配」といい、全体が均一の食感を楽しむ低温調理と相反して、一口で幾つもの火の入り方を楽しむ非常に高度な加熱方法です。
今ではどちらも高級なレストランなどでは当たり前のように使われている火入れ方法で、どちらが優れているというわけでもなく加熱調理の選択肢の一つです。)

以上の理由から燻製>低温調理>揚げという順番を選択したのです。

今後の阿漕カツの目標は燻製で生肉に阿漕なまでの薫香を追加し、阿漕にも低温調理で分厚いお肉に均一な火入れをしたうえに柔らかくし、ザクザクになる衣をつけ揚げることで阿漕極まりないクリスピーな食感をつけ、なんて阿漕なと呼ばれるまでに美味いカツを作るという結果に向かっていろいろと試作していきます。

阿漕トンカツはしばらく僕の料理の研究のテーマの一つとして、長期に渡って試作していきたいとおもってますので、また新しい発見があれば記事にしたいと思います。


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